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レビュー 吉本作次展

吉本作次展
ケンジタキギャラリー 2008年9月6日~10月4日
Text:田中由紀子

 名古屋市民芸術祭2006・美術部門企画展「next station―次の美術駅へ」での展示から、ちょうど2年ぶりとなる吉本作次の個展。
 会場1階に展示されたのは、いかにも彼らしいベージュを基調とした油彩の作品群。まずは、画面のほぼ中央に描かれた漫画風の人物が織りなす出来事に「くすっ」とさせられる。しかし、見る者の視線はそこに留まることなく、その周囲に描かれた樹木や崖、雲や煙に引きこまれていく。
 木々の茂みや断崖を形づくる小刻みに曲がりくねった線や、雲や煙を構成する大胆にうねる線。それらを目でたどるように見ていると次第に幻惑され、バロック様式の彫刻の衣の襞を見入るうちに、視線が襞の奥へと吸い込まれていくのに似た感覚を覚えた。
 曲線に加え、多視点的な画面構成も吉本作品を特徴づける要素といえる。たとえば、透視図法で描かれているようにも見える《田園の宴会》(2008年)は、中央下の人物と左右の木々、遠くの田園が、それぞれ別の視点から描かれている。多視点で構成された画面に違和感を覚えそうだが、ふだん私たちは固定された視線で対象を見ているわけではなく、目を動かしてさまざまな角度から見ている。したがって、多視点で捉えられた風景に、その風景と実際に向かい合っているようなリアリティが感じられる。
 こうした曲線をたどる目の動きや多視点的な表現をとおして、吉本は見る者に身体的に画面の奥行きを感じさせようとしているのではないだろうか。
 一方、2階には荒々しいストロークを駆使した作品群が並べられた。うねるような曲線が繰り返される点は共通しているが、1階の作品群が細くて硬い選び抜かれた線で描かれているのに対し、こちらは太く即興性のある線で描かれている。それらの線を目で追うと作家の大胆な手の動きが追体験でき、身体的にダイナミズムが感じられた。
 これらが1階の作品群と同時期に制作されたというのは意外だったが、これまでの評価に満足し得ない吉本の旺盛な意欲が感じられる内容となっていた。

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