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レビュー Who is Inside?―杉山健司+浅田泰子


Who is Inside?―杉山健司+浅田泰子
名古屋市市政資料館 第1~5展示室 2008年9月26日~10月12日
text:田中由紀子

包装紙や紙袋の切れ端などにささやかな身の回りの事物を描く浅田泰子と、Institute of Intimate Museum(「親密な美術館」の意)という架空の美術館を展開しながら、見る・見られるという関係性や見ている対象と見えている事象のズレを視覚化してきた杉山健司による二人展。
展覧会の導入となるのは、浅田による架空の旅の物語。まったくのフィクションかと思いきや、手書きの原稿の周囲には、彼女が旅行の途中で手に入れた物の写真や切符などが展示されており、事実とつながっているところが彼女らしい。

隣の展示室には、台に置かれた人の頭部を模したオブジェから放射状に赤い糸が張り巡らされ、そこに無数の紙の小片が吊り下げられていた。オブジェには紙バッグでつくられたマスクが被され、後頭部には楕円形の穴が2つ開けられている。覗き込むと、鏡の前に立つ女性をかたどった小さな人形が目に飛び込んできた。しかし、鏡に映るのはありのままの彼女ではなく、スリムになり着飾った彼女。さらに驚いたのは、その様子が逆さまに表わされており、中にはめ込まれた鏡によりそれが反転されていたことだ。鏡の前の実像と鏡に映る虚像、逆さまな実像と正しい向きの虚像は、私たちに見えている事象が対象そのものではなく、願望や思い込みにより歪められていることを示唆していた。
一方、空間に張らされた糸にぶら下がっていたのは、買った品物が描かれたレシートや旅行の思い出が描かれた観光名所のポストカード。空間に広がる糸はマスクの奥から投げかけられる視線のようであり、そこに小さな絵が連綿と連なるさまは、私たちがさまざまな対象を見て、その積み重ねが脳内にイメージを描きだすという双方向の作用を想起させた。
同様の展示が3つの部屋で行われていたが、浅田、飼い犬、小学生の息子から見た世界がそれぞれに展開されていた。こうした構成に加えてマスクとその内部の制作を杉山が担当し、浅田はそれを受けてレシートやポストカードの作品をつくったという。現実の生活に根ざした制作を続ける浅田と、現実と虚構が綯い交ぜになった世界をつくり上げる杉山のコラボレーションは、互いの作風を生かすことにより、現実世界と脳内イメージのズレを重層的に表現できた点で成功していた。

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