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インタビュー アーティスト・百合草尚子

アートホリックな人のいまをお届けするこのコーナー。今回は、GALLERY CAPTIONでの個展(8月23日~9月13日)を終えたばかりのアーティスト・百合草尚子さんにお話をうかがいました。

GALLERY CAPTIONでの3回目の個展ですが、今回、大切にしたことはありますか?
これまでも絵画を空間全体にインスタレーションしてきましたが、今回は壁に直接描かせていただけたので、作品が展示された壁の余白をスケッチブックの余白のように捉えて、ドローイングを施しました。キャンバスや紙に描いた作品だけでも空間は作れましたが、壁にドローイングしたら、目指していたイメージにさらに近づけた気がします。

壁にドローイングするのに苦労した点は?
どこに何を描くといった具体的なプランはなく、展示した作品を見ながら壁に描いていったのですが、一発勝負でリスキーな面はありました。調子に乗って描いたものの、離れて見たら「あれっ、この線どうしよう」みたいな。紙とは違って、描きながら全体像が把握しにくい点に苦労しました。

新たな試みとして、絵本の体裁になっている作品がありますが、ストーリーがあるようでないような不思議な絵本ですね。
すでに完成されている物に描くのは緊張もするけど、楽しかったです。ドキドキしながら描いていました。本はスケッチブックと違ってページの両面に描くので、絵の順序が決まってくるし、間違えても破棄できません。でも、最初から全体の構成を決めていたわけではなく、一枚描いては次はこうしようと考えながら描いていきました。

絵の中にしばしば現れるクマやウサギ、顔のあるブロッコリーなどは、百合草さんの分身なのですか?
気持ちというか感情みたいなものを代弁してくれているものたちです。最近、アトリエに置いてあったウサギの作品を見た瞬間に、地下鉄の窓に映った自分を見たような感覚を覚えハッとしたことがありました。全部が自分というわけではありませんが、仕事帰りの「ほっ」と脱力した感じや、きれいな風景を見て「わぁー」と高揚した感情を表現できたらと。

ブロッコリーなどは、「ほっ」としているというよりシュールな表情ですが。
ブロッコリーは学生時代から描いています。その頃から日常的なものを描いていたのですが、ある日「なぜブロッコリーにはマヨネーズをかけるんだろう」と思い立ち、次の日からブロッコリーを描き始めました。卒業制作も《マヨネーズのある風景》というタイトルで、ブロッコリーを描いています。

日常的な題材といえば、ブラジャーが飛んでいる風景などはどのように発想されるのですか?
パンツはよく風に飛ばされるけどブラジャーは重いので飛ばされないな、じゃあブラジャーを飛ばすくらい強風の風景を描こうとアルプスを彷彿させる風景を描いたのが始まりです。ブラジャーにも見えるけど、雲にも見えるという感じで。面白くしようと描いているわけではないのですが…。

森など自然の風景を描いた作品が多いように思いますが、そういう世界が百合草さんのユートピアなのですか?
身近な風景を描いているだけなのですが、絵の中に緑が多いのは、家の周囲の環境がそうだからかもしれません。でも、町を描いていないこともないんですよ。

9月16日から取り壊し前の美容院でdotの展覧会がありますが、百合草さんがdotに参加したきっかけは?
dotに参加して約4年になります。きっかけは、曽根裕さんのワークショップに参加したときに、曽根さんから「大きい絵を描いたほうがいい」と言われて。当時は家で制作していたので小さな作品しか作れず、大きな作品を描くにはアトリエが必要だと考え、dotに参加しました。

美容院での展覧会は、どんな展示になりそうですか?
既存の壁に直接ドローイングしたり、空間にモビールを吊るしたりする予定です。最終日のイベントでは「紙芝居アニメーションライブペイント」として、私が作った映像を白い紙に映し出し、それに重ねるようにライブペイントをします。

百合草さんにとって、dotどんな場ですか?
年齢や作品のタイプもさまざまなのですが、そういう点でも刺激を受けますし、メンバーの知り合いが来て、思わぬ出会いがあったりもします。一人で家で描いているのとは違い、すぐ誰かに見てもらえるのが、私にとってとてもよい感じです。今はスタジオとしての場なので、みんな各々頑張っていて刺激しあっていると思います。

東海エリアのアートシーンについて思うことは?
学生の頃は、ちょうど名古屋港のartportやdot、N-markの立ち上げなど勢いや盛り上がりが感じられ、期待感がありましたが、いまはそれぞれ活動はしていても、つながっていない気がします。


百合草 尚子(ゆりくさなおこ)
1975年 名古屋生まれ
1999年 名古屋芸術大学美術学部絵画科洋画コース卒業
2001年 名古屋芸術大学大学院美術研究科修了

■おもな展覧会
2003  drawing(エビス・アート・ラボ/名古屋)
   犬小屋展(エビス・アート・ラボ/名古屋)
2004  AKIMAHEN!(Maison Folie de Wazemmes/フランス)
    EIJANAIKA YES FUTURE!(Collection Lambert en Avignon/フランス)
2005  para/dice(+Gallery/江南)
    Double Bind-Seoul Fringe Festival(アートスペース・ヒュー/韓国)
2006  International Workshop for Visual Artists(デンマーク)
    solo exhibition/5 artists( GALLERY CAPTION/岐阜)
2007  After REMISEN#8(名古屋芸術大学アート&デザインセンター/北名古屋)
    solo exhibition/4 artists( GALLERY CAPTION/岐阜)
2008  daily work2008(dot/北名古屋)
    solo exhibition/4 artists( GALLERY CAPTION/岐阜)

■展覧会スケジュール
dot in LA PENSEE
会期:2008年9月16(火)~9月21日(日)時間:13:00~19:00
会場:LA PENSEE VERT(ラパンセヴェール)http://www.la-pensee.co.jp/top.html
住所:名古屋市中区栄3-23-20 交通:地下鉄矢場町駅4番出口徒歩5分
展覧会、関連イベントともに入場無料
※関連イベント 9月21日(日)19:00~22:00
kamitani&exhibiTion!、オオハタミキのライブ、ジェット達のパフォーマンス、百合草尚子&世紀マ3によるライブペイント&謎

dotウェブサイト→ http://art.studio-dot.com/

写真:《そよそよ風》木パネル、キャンバス、色鉛筆 2008年
撮影:大須賀信一

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